月刊ガバナンス平成27年9月号 18歳選挙権に期待する 公職選挙法が改正されて、18歳選挙権が実現した。選挙権年齢が引き下げになるのは、1945年に婦人参政権と同時に25歳から20歳に引き下げられて以来だから、70年ぶりのことである。選挙年齢の18歳への引き下げ問題は、長い間検討されてきた経緯がある。なかなか実現を見なかったのが、ここにきて決着がついたのは、憲法改正手続きを定める国民投票法で、投票年齢が18歳以上ということになったことの影響だろう。 18歳選挙権は制度としては実現したが、それに伴い新たな懸案も生じている。18歳の高校生が選挙権も持つことになったことから、高校教育における政治に関する教育の問題である。教員の政治的中立性が、これまで以上に重視されることになる。 政治的中立性の問題とは別に、高校生にどのような政治教育をするかという論点もある。今は「主権者教育」というらしいが、政治や選挙の仕組みについて基本的なことを教えるものである。文部科学省と総務省が副読本を作成中とのこと。教える高校の先生も大変だろうし、ここに政治的中立性の問題が持ち込まれたら混乱するだろうなということがある。しばらくは、試行錯誤でやっていくことになろう。 来年夏の参議院議員選挙を手始めに、18歳以上が選挙権を行使して投票をすることになる。新規参入の若者たちがどのような投票行動をとるか大いに関心がある。投票率はどうなるのか、若者全体の投票数をどれだけ上乗せするのかなど、興味津々である。「高齢者と比べて若年層の投票率が低いがために、高齢者優遇の政治になっていることへの危機感も持ちながら投票に出向いた18歳」というようなエピソードを聞きたいものである。 私は、大学で20歳以上の若者に「地方自治論」を講義していることもあり、学生たちの政治への関心の持ちようはかなり承知している。一般的にいって、学生の政治意識は高くない。政治に関してだけでなく、時事問題に関しても、知識も興味の持ち方も低調である。そもそも新聞を読む学生がとても少ない。就職してからはいざ知らず、学生時代は社会や政治への興味・関心は持たなくていいと思っているのかもしれない。 選挙で投票に行かない理由を学生に訊ねてみた。「政治に興味がない」、「誰に投票しても変わらない」、「投票したい候補者がいない」、「誰に投票したらいいのかわからない」、「他にやることがあり投票所に行く暇がない」など。それに対して私は「選挙に行っても何も変わらないかもしれないが、選挙に行ったあなたは確実に変わる」ということで彼らに教え諭しているつもりである。 選挙年齢が下がることを心配している人も少なくない。20歳以上の若者でさえ政治的、社会的に未熟であると指摘されている中で、もっと未熟な若者の選挙参加により、選挙が混乱するのではないかという懸念である。そうかもしれないが、選挙に行った若者の政治意識と政治的関心度合いは確実に高くなることを信じたい。 「地方自治は民主主義の学校」というジェイムズ・ブライスの言葉を再び引用したい。若者が民主主義を学ぶのは、実際の経験を通じてである。今度は、学校入学が2年早まる。それだけ早く民主主義を学び始めることができる。 最後に、一つだけ私の懸念。大学入学で住所が変わっても住所変更をしない学生が多い。結果的に、投票ができない。折角の選挙権が生かせないともったいない。来年4月の新大学生は留意してほしい。
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