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月刊ガバナンス平成27年8月号
続アサノ・ネクストから 第59

改めて、民主主義って何?

 国会で安全保障関連法案の審議が進んでいる。衆議院の特別委員会での審議では、集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」とは何かについて、安倍総理の説明が明確でない。また、集団的自衛権の必要性を強調する際に、真っ先に掲げていた「邦人輸送」事例についても、要件を満たさないことが明らかとなり、朝鮮半島有事でも、どのような場合に集団的自衛権を使うのか、安倍政権は具体的な事例を示していない。

 こういった議論が、重箱の隅をつつくようなささいなものに思えるほど大変な事態が生じた。衆議院の憲法審査会で、自民党推薦の長谷部恭男早稲田大学教授を含む3人の参考人が「安保法案は違憲」と明言した。これは重箱の真ん中をぶち抜いたようなものである。さらに、安保法制についての世論調査では、安保法制の今国会での成立に反対する回答が多数である。

 ここでは、安保法制の是非を論じるつもりはない。 国会審議で政府側の説明が十分でなく、「法案は違憲」と憲法学者が明言し、国民世論も法案成立に反対しているという状況の中で、今国会で法案を成立させようとしている動きがあることをどう考えるかということである。

 今年四月のアメリカ議会での演説の中で、安部首相は安全保障法制をこの夏までに成立させる決意を表明した。野党が反対しようが、抵抗しようが、法案は通す。というより、法案は今国会で成立すると見ているのだろう。

 国会内の与野党の勢力分布を見れば、安倍首相の目論見に根拠はありそうである。衆議院では与党326名、野党149名、参議院では与党134名、野党108名である。与党が衆議院で三分の二を超え、参議院でも過半数を占めている。この状況で採決にさえ持ち込めば、どんな法案でも通ってしまう。「それが民主主義だろう」と豪語するのだろうか。

 ちょっと待って。民主主義とは単なる多数決のことではない。民主主義とは、少数派の意見を尊重し、熟慮と真摯な討議を通して結論に導くことである。その観点からいって、安保法案の国会審議において、国会内民主主義は尊重されているだろうか。

 「安保法案に関する審議時間は十分にとっている」と与党側は主張する。しかし、これだけ問題の多い法案である。11本の関連法案が一括して審議されている。審議時間だけでなく、審議の質も問われなければならない。熟慮と真摯な討議という点では審議が尽くされたというには十分でないのに、「審議が尽くされた」として、採決に持ち込むのは与党多数の委員会では可能である。

 超重要法案の審議のありようを凝視して思うのは、「民主主義って何?」ということである。国会での法案審議においては与党が絶対優位である。世論調査の結果がどうであれ、マスコミが批判しようが、憲法学者がこぞって「法案は違憲」と主張しようが、国会内の与野党の力関係そのままに、問題の多い重要法案が成立してしまう。

 それが議会制民主主義だというのだとしても、せめてはスローな民主主義にしてほしい。熟慮と真摯な討議は絶対に必要である。  


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