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月刊ガバナンス平成26年12月号
続アサノ・ネクストから 第51

「カジノ構想」と国家の品位、自治体のプライド

 我が国でカジノを解禁し、それを成長戦略の目玉にしようという動きがある。そんなことを日本国民の多くは、心から望んでいるとは思えない。福島原発事故の惨禍が収まっていないのに、原発再稼働を政府が平気で言い出すのに似ている。再稼働を国民が望んでいるとは言えないのも、同じである。

 カジノをIR(特定複合観光施設)の中に入れて、何やら素敵なもののようにお化粧しているのは姑息である。カジノの上がりで儲ける、カジノの集客力で観光振興を狙う、税収と雇用を増やす、つまりは、カジノは簡単に、効率的に稼げるビジネスと考えられている。そのビジネスを成長戦略の目玉と持ち上げて、国が積極的に進めようとしている。それでいいのか。ほんとうにいいのか。

 安部首相は、シンガポールのMBS(マリナーベイサンズ)を視察して、IRの経済効果を実感したらしい。それで「日本も」というのは、単純に過ぎる。今の日本において、カジノを中心にしたIRを政府がかりで進めることの是非は、幅広くそして慎重に議論されなければならない。

 私見を申せば、やめておきなさいということである。理由はいくつかある。カジノができても、日本人の利用は制限される。議員提出の「カジノ解禁法案」では「日本人の入場に関し必要な措置を講ずる」とあるのは、このことである。ギャンブル依存症対策を意識している。外国人は制限なく利用できるのだから、外国人のギャンブル依存症は気にしない。「外国人はギャンブル依存症になっても構わない。むしろ、そうなったほうがこちらは稼げる」というのは、いかがなものだろう。

 カジノはギャンブルをするところである。ギャンブルは隠微な臭いがする。お天道様の見ているところで堂々とするものではない。その点では、セックス産業と似ている。ギャンブル産業を成長戦略の目玉として、政府が何の恥じらいもなく進める。これも、いかがなものだろうと言いたくなる。国家としての品位の問題に関わる。

 まだまだ他にも問題はある。カジノの運営は、日本企業に経験がない。外国資本が入り込んで運営することになる。カジノビジネスの儲けは外国資本に吸い上げられてしまう。カジノ周辺の治安の悪化は完全に防げるのか、などなど。

 そういった問題山積の中で、カジノ法案の審議入りは先送りされ、法案成立のめどは立っていない。

 にもかかわらず、一部自治体はカジノ誘致に向けて動き出している。大阪市は湾岸部の人工島夢洲(ゆめしま)を建設予定地として、誘致に積極姿勢を示す。横浜市は山下埠頭を念頭に林文子市長が熱心に誘致計画を進めている。沖縄県は、辺野古基地移転容認と引き換えにカジノ誘致が囁かれているが、それはないだろう。

 10年ほど前、全国知事会でカジノ誘致が議論されたことがある。某知事が「うちの県はカジノ誘致をするほど落ちぶれてはいない」と発言したのが印象に残っている。私はこの発言を自治体のプライドの問題と受け止め、内心で拍手を送った。国にとっては品位の問題、自治体にとってはプライドの問題。たとえはぴったりではないが、「武士は食わねど高楊枝」の言葉を思い浮かべてしまう。  


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