月刊ガバナンス平成26年11月号 政務活動費と地方議会の使命 元兵庫県議会議員の野々村竜太郎氏が、政務活動費の収支報告書に虚偽記載をしたことで、政務活動費が一般の関心を集めることになった。その前に、野々村氏の号泣記者会見のインパクトが大きい。その模様が何度もテレビに登場することで、政務活動費が多くの人の知るところとなった。 私が宮城県知事の頃は、「政務調査費」と呼んでいた。略して「政調費」である。それが2012年の地方自治法改正で「政務活動費」と名称が変更された。略すと「政活費」となるが、「生活費」ではないかと揶揄されないだろうか。それはともかく、調査研究以外の「その他活動」にも使途が拡大した。 野々村事件を発端として、「政務活動費って何だろう」と、一般の関心が高まった。聞いてみると、兵庫県議会議員は一人月に50万円支給されるという。しかも、目的外使用も多数。領収書が偽造されているケースもある。それで、みんなが怒った。マスコミも批判した。「領収書を正しく記載しろ。内容を精査せよ、使用しない分は返還しろ」といった論調である。 各議員は、政務活動費を目的どおりに使用しなければならない。それはそのとおりである。しかし、本当の問題は、それを使って、調査し、研究し、活動をして、その結果どういう成果を挙げているのかということである。卑近なたとえをすれば、大学受験の高校三年生が、母親からお金をもらい、高額の参考書を買い求める。買っただけでは不十分で、それを使いこなし、入試に合格するのが成果である。政務活動費を使って、議員は入試に合格したのかが問われる。 地方議会は何をすることが使命なのか。二元代表制のもと、首長(行政側)と並置される機関として、議会は首長に政策で対抗するべき存在である。政策の議論をし、行政の政策をチェックし、必要な条例を提案する。そのために、内外の自治体を視察する、専門家の意見を聴取するなども必要だろうが、何よりも大事なことは、その自治体の住民の意向を聴き取ることである。それが、住民の求める政策策定のもととなる。 具体的な提案がある。行政側は各種の審議会、調査会を使って専門的な見識を得ている。これに対抗して、議会側も専門家の意見を求め、一般の住民の要望を集めるために、案件ごとに公聴会を開催することである。その費用にこそ、政策活動費を充てたらいい。 政務活動費が正しく使われている、領収書も適正に提出されている。それでよしとするのでは、まだ問題解決にならない。政策活動費を使って、議会はどんな成果をあげているのか。それが見えないうちは、地方議会は一体何をやっているのか、何のために存在しているのか、明らかにならない。つきつめていくと、地方議会なんていらないということになりかねない。 兵庫県議会は、9月22日の本会議で、政務活動費の1割減額、前渡し制度の廃止を盛り込んだ条例案を賛成多数で可決した。しかし、これで政務活動費の問題はすべて解決とはならない。この問題をきっかけに、議会のありかた、議会は何をすべきなのか、そこまで議論が盛り上がって、初めて解決の方向が見えてくる。
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