月刊ガバナンス平成23年2月号 社会保障制度改革の行方 社会保障制度改革が、喫緊の課題になっている。年金、医療保険、介護保険の対象となる高齢者は確実に増加する。その一方で、制度を支える若年者は減り続ける。社会保障費は、毎年、1兆円を超えて増加していく。財源問題としてだけでなく、社会保障制度の全般的な見直しがなされなければならない。菅首相も見直しをする方針を打ち出しているので、今年中に、社会保障制度改革を検討する場が設けられるだろう。その議論にあたって、いくつかの留意すべきことを指摘しておきたい。 まずは、税制改革と一体となった社会保障改革でなければならない。今後の社会保障費の増大に対しては、国庫負担を増やすしかない。その財源をどうするかについては、消費税の引き上げは避けられないというのが、現政権だけでなく、野党にとっても、さらには 国民の中にも暗黙の了解となっている。 消費税の引き上げは、社会保障のためにだけ使うということにすれば、引き上げに賛同を得やすいという考え方があるが、これには、私は懐疑的である。消費税の引き上げを容易にするために、社会保障改革がだしにされるという不快感だけではない。「消費税は社会保障にあてる」ということに無理があるからである。社会保障の財源の国庫負担分は、今の制度を前提とすれば、毎年、増え続ける。増えた分は消費税が賄うとするなら、消費税率を、毎年、同じように高い率で引き上げる必要があるが、そんなことが可能であろうか。社会保障制度改革の議論の中で、必ず出てくるであろう「消費税を社会保障費に」という意見を先取りして、「そんな単純なものではない」と言っておきたい。 社会保障制度改革は、現在の制度を基本から見直す抜本的なものにならざるを得ない。であるから、不十分な内容で「見切り発車」するなら別だが、議論が延々と続くことが予想される。改革案はできても、それを実行するのは、容易なことではない。忘れてならないのは、その長い「検討期間」中には、現行の制度がそのまま残っているということである。 ここで言いたいことは、年金制度、医療保険制度、介護保険制度に関し、目の前の個別の課題の解決を求める声に対して「ただいま、社会保障制度全般の改革について議論の最中ですので、その改革の一環として、現在提起されている問題を解決してまいりたいと存じます」という対応になってはいけないということである。目の前に問題があれば、逃げずに、解決を図らなければならない。「抜本改革が予定されている」ということで、目の前の問題が先送りされる危険性があることを指摘しておきたい。 どのような改革であれ、大原則とすべきは、制度の安定性である。日本の医療保険制度は、いろいろ問題は指摘されているが、世界に冠たる立派な制度である。そのことを大きな病気を得た患者として、身をもって実感した。医療保険制度を崩壊させてはならない。 最後に付け加えれば、社会保障制度を成り立たせているのは、国に対する国民の信頼であることを、現政権にも認識してもらいたい。政争で右往左往している場合ではないのである。
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