月刊ガバナンス平成26年10月号 災害と自治体 2014年8月20日未明、広島市で発生した土砂災害は、多くの人命を奪い、家屋財産を破壊流失させる、未曾有の大災害となった。災害発生時から復旧・復興まで、市町村の役割が大きいのは、今回の災害時に限らない。しかし、市町村は災害時に活用できる十分な資源を有しておらず、十分な力を発揮できる状況ではない。 市町村に防災の専門家が足らない。今回の土砂災害においても、危険な山腹の形状を把握し、土砂災害予防のための砂防堰堤を構築するなどの予防措置が的確にできていれば、災害を最小限にできた可能性がある。しかし、そういった専門家の確保はむずかしいし、専門分野ごとにすべての専門家をそろえるのはとても無理。国や県にいる専門家を随時に派遣してもらう関係を構築する必要がある。 市町村、特に行政規模が小さい町村では、災害対応においては、完全装備でいることはむずかしいし、合理的でもない。災害行政は通常の行政業務とは違う。「この地域では百年に一度の災害」、「想定外の降雨。揺れ、津波・・・」ということでも、県レベルでは経験済みかもしれない。そういった災害への対応や装備は整っている。こういう時にこそ、県の出番である。市町村の通常業務に県が細かく口を出すのは自制するとしても、災害時には県は積極的に市町村を助けるべきものである。 市町村レベルで単独でやれることはいくつかあるが、その中でも大事なものは、災害ハザードマップの作成である。災害時の避難経路、避難場所、防災用具置き場、災害弱者(障がい者や寝たきりの人など)が住む家などの情報を地図上に書き込んだものである。これは市町村の指導、監修により、町内会などの住民組織が作成することが多い。作成過程から学ぶことも多く、災害時には大変役に立つ。これは県ではなく、市町村がやるべきことである。 今回の土砂災害はについていえば、都市づくりが問題となるだろう。住宅地を求めて山裾、谷合などの土砂災害警戒区域にまで家を密集して建てるという都市づくりは、「想定外」の豪雨には極めて弱い。都市づくりの段階から規制をかけないと、土砂災害による甚大な被害は防ぎようがない。 災害関係で、単独の市町村にやらせるのは無理な仕事がある。一例として、原発事故で住むところを失った住民への対応である。昔の土地に復帰を希望する住民への対応をする町村は、もっと大変である。他の市町村や県で肩代わりすべき業務があるはずである。当該市町村の「主権」を侵さない範囲での援助が求められる。 原発関係では、事故後の避難計画の策定、避難経路の確保も立地市町村、周辺市町村の責任である。福島原発事故後は、精密な計画、車両渋滞を起こさない道路網の新設が求められている。こんなことも、単独市町村の肩には重すぎる負担である。なんとかしなければならない。 最後に、災害に関して、市町村議会が住民の期待に応える活動をしていない点を深く憂える。災害時こそ、議会と議員が大活躍できる場面である。日頃は存在感が薄い議会が、議会ここにありを住民に見てもらう格好の場である。
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