浅野史郎のWEBサイト『夢らいん』

 

月刊ガバナンス平成26年6月号
続アサノ・ネクストから 第45

地方議会の意見書提出

 国政に関して、地方議会による意見書提出の動きが盛んになっている。きっかけは、集団的自衛権の行使を、憲法解釈の変更で容認しようとする政府の姿勢である。昨年9月以降、59の市町村議会が意見書を国会や政府に提出している。すべてが、解釈改憲反対の方向か、慎重な対応を求めるものである。

 地方議会の意見書に法的拘束力はない。それは、新聞社や民間調査機関が実施する世論調査の結果に、法的拘束力がないのと同じである。法的拘束力はないが、政府や国会は世論調査の結果を相当気にしている。地方議会は、住民を代表する機関であるのだから、その意見は住民全体の意見を反映している。政府・国会とすれば、地方議会の動きを重視しなければならないことになる。

 とはいうものの、集団的自衛権の行使容認の問題についての地方議会の意見書が、確かに住民の意見を反映したものであるかどうかは、検証が必要である。議会が意見書をまとめるにあたり、各自の議員は多くの住民と接触し、その結果「これが民意だ」という心証形成をし、それを各自議会に持ち込む。それをもとに、議会全体で議論し結論を得るというのが理想である。「地方議会は住民を代表する機関である」というのは、選挙のことだけいっているのではなく、議会の日常活動においても、常に住民の意見、要望を聴き取り、それを議会の意見形成に反映させるべきものであるというメッセージでもある。議会が意見書をまとめる際にも、このことは大事にされなければならない。

 実際のところは、「集団的自衛権の行使容認の解釈改憲についてどう思うか」といったむずかしい問題については、住民の意見を求めるのは困難である。だとすれば、住民との接触は、この問題について、議員がわかりやすく説明する場になってもいい。議員が問題について、知識と識見を持ち合わせていることが条件ではあるが。

 実は、ここまでのこと、憲法改正発議の際の地方議会の役割を念頭に置いて書いている。地方議会の教育的、啓蒙的役割は、憲法改正論議の際に最大限発揮されるべきものである。「地方自治は民主主義の学校」というのに、こういう使い方もあっていい。

 関連して、もう一つの話題を取り上げる。憲法問題をテーマに掲げる市民のイベントに対し、自治体が後援を見送ったり、施設使用の際に内容に注文を付けたりするケースが増えている。憲法改正賛成/反対の議論に巻き込まれたくないというのが、自治体側のホンネだろう。

 前回のこの欄で、国民投票について書いた。憲法改正の発議を受けての国民投票に、国民はどう対処するのか。にわか勉強では追いつかない。事前に、憲法問題について、それなり以上の見識を持っていなければならない。憲法問題を扱う市民イベントへの参加は、知識、見識を身につけるいい機会である。そういう機会を自治体も積極的に支援すべきである。イベントの後援に二の足を踏んでいる場合ではない。

 「地方自治は民主主義の学校」という得意のフレーズを、ここでももう一度使わせてもらおう。    


TOP][NEWS][日記][メルマガ][記事][連載][プロフィール][著作][夢ネットワーク][リンク

(c)浅野史郎・夢ネットワーク mailto:yumenet@asanoshiro.org