月刊ガバナンス平成26年2月号 選挙は大事 猪瀬直樹東京都知事が昨年末、知事を辞任し、今年1月に出直し知事選挙が実施された。徳洲会からの5千万円受領が、猪瀬氏辞任の決定的理由である。 猪瀬氏は知事辞任の記者会見で、「5千万円を受領したのは、政治家としてアマチュアだったから」と表明している。猪瀬氏の言い方だと、百戦錬磨の政治家なら5千万円は受け取らなかったということになる。実態はそうではない。プロの政治家なら、受け取ってもその事実は表に出さないだけのことである。 「政治家としてアマチュア」というのは、「選挙は初めてだから、何も知らない」ということも意味する。猪瀬氏は、選挙のプロに「選挙は何かと金がかかる。だから、もらえるものは、いくらでももらっておくもんだ」と指導を受けた。「はあ、そういうもんですか」といって徳洲会から受領したのはいいが、隠し方までは指南を受けなかったのかもしれない。 「もんだの人々」と私が呼ぶ人たちからの助言を、選挙デビューの新人は、金科玉条の如く受け止める。政党からの支援は積極的に受けるもんだ。企業、団体からの金銭を含む支援はこちらから求めるもんだ。法定費用内での選挙などあり得ない。選挙費用はいくらでもかけるもんだ。これで旧態依然たる選挙体制ができあがる。猪瀬氏の5千万円受領は、ほんの一断面である。 都政を改革しようとしたら、知事選挙の改革から始めなければならない。「選挙のありようが、新知事のありようを決める」というのが、経験者の実感である。選挙の際の知事候補者と都議会議員との関係、枠組みは、新知事と都議会との枠組みを規定する。都議会との関係にとどまらない。選挙で特定の個人・団体に借りを作れば、当選後に知事はその借りを何らかの形で返さなければならない。それが都政の枠組みを形づくる。 借りるなら、有権者たる都民に借りを作る。選挙で掲げたマニフェスト(有権者との約束)を、新知事は都政で実現する義務を負う。こういう借りならいいが、当選後に「おい、君は誰のおかげで知事をやれているんだよ」と有形無形に圧力を感じるような借りは作ってはならない。 都知事は、都庁という組織のトップであると同時に、都民から選ばれて都庁に送り込まれた存在でもある。都庁という巨大組織と完全に一体化するのではなく、都庁組織を批判的に見る目も持たなければならない。その態度が育つのも選挙を通じてである。 17日間の選挙期間中に、有権者とどれだけ向き合ったか、有権者の声をどれだけ真剣に聴いたか。それが都政への期待として、新知事の血となり肉となる。体内からの声には従うしかない。これはいい知事となる条件である。そのためには、「いい選挙」をすることである。「選挙のありようが、新知事のありようを決める」というのは、ここでもあてはまる。 17日間の選挙戦が、新知事を鍛える。体力的にも、精神的にも、激職に耐えられることの証明でもある。新都知事がどんな知事になるか、それは今回の選挙がどういう枠組みで、どう戦われたかを見れば明らかとなる。
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