月刊ガバナンス平成25年12月号 特定秘密保護法 特定秘密保護法について、危惧を抱いている。心配しているのは、法律の中味というよりも、制度の運用である。 情報公開法(2001年施行)の運用において、政府は情報を隠すことに熱心であり、制度の趣旨を違えている。特定秘密法の運用も、同じになるのではないか。そのことを危惧している。 情報公開制度については、地方自治体が先行している。1982年に山形県金山町、1983年に神奈川県が情報公開条例を制定した。それ以外の都道府県で条例制定が相次ぐ。国の情報公開法制定は自治体に比べて20年遅れである。そもそも、国は情報公開制度の制定に不熱心だった結果であり、情報公開制度の運用にも、その姿勢が引き継がれている。 情報公開法施行の直前、ある省では、公文書の廃棄が前年の数十倍になった。省内会議の議事録は原則として残さないことになった役所もある。その他、情報公開法制定の精神に反するような運用の例が多数見られる。なんとか情報開示の義務からすり抜けようと、役人特有の「知恵」を絞っている。 情報公開法は、政府が出したくない情報でも、無理矢理開示させられる制度である。その制度があっても、まんまとすり抜けて、情報非開示に成功する事例がある。特定秘密保護法は、特定秘密とされる情報は開示しないだけでなく、秘密情報を洩らした公務員を罰するというものである。ここでも「運用の妙」が発揮される恐れがある。 特定秘密情報法で特定秘密とされる分野は、防衛、外交、スパイ活動の禁止、テロ防止の4分野である。防衛・外交については、機密がつきものである。機密であることを悪用して、沖縄サミットの支出関係で、億円単位の外交機密費を詐取流用した外務省職員がいた。外交官の不祥事も後を絶たない。こういった「不都合な真実」も機密のベールの中に封じ込まれる可能性がある。 秘密の範囲が際限なく広げられるおそれがある。公安警備に関わる警察官に弁当を提供する仕出し屋の情報は非開示。私の知事時代の事案である。仕出し屋がどこか知られると、何人分の弁当が調達されたかがわかり、警備にあたる警察官の人数が知られてしまう。これが、警備上の大きな支障であるというのが非開示、つまり秘密にする(屁)理屈になる。 誰が、どういう基準で秘密事項を決めるのかが、問題とされなければならない。政府がある情報を秘匿する妥当性は、その情報内容を知らなければ判断できない。この点に関しては、民主党が提出した情報公開改正案にある裁判所のインカメラ審理が参考になる。秘匿の妥当性を審理する裁判では、裁判官は政府が秘匿しようとする情報内容を見ることが許される。内容を見た上で、秘匿を認めるかどうか判断する材料にするというものである。 特定分野では秘密保持が重要ということは誰でもわかる。しかし、秘密にする範囲が野放図に広がっては、政府のやりたい放題となる。「情報公開での聖域は腐敗する」ことを忘れてはならない。特定秘密保持法の実際の運用が大事というのは、このことを指している。
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