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月刊ガバナンス平成25年10月号
続アサノ・ネクストから 第37

首長の多選

 8月に行われた市長選挙2題。11日に仙台市長選挙、25日に横浜市長選挙があった。ともに現職の奥山恵美子氏と林文子氏が、相手候補に大差をつけて再選を果たした。どちらも市議会有力会派の推薦を受けた無風選挙である。投票率は仙台市が30.11%、横浜市が29.05%と史上最低なのは、「どうせ現職が勝つのだろう」と投票に行かなかった有権者が多かったからと言われている。

 現職首長が再選を目指して出る選挙では、似たりよったりの状況である。結果として首長多選の傾向を現出することになる。その多選について考えてみよう。

 多選の是非論はやらない。ここでは、宮城県知事を3期12年務め、4期目は自分から「やらない」と決めた経験を持つもの(私のこと)の立場から、多選を目指す現職首長の意識を推察する。

 1番目は特権を手放したくないということ。実は、首長には、権力というほどのものはない。ただ、「偉い人」と見られることは確かである。ちやほやされ続けたいというのは、否定できない。長くやって、叙勲の上位を狙うという首長もいるかもしれない。

 第2に、現職は、選挙に強いことがあげられる。選挙に出れば楽勝なのに、なんで辞める必要があるのか。対立候補に比べれば知名度抜群である。議会も関係団体も、こぞって支援している。健康状態良好、失政もないのだから、選挙に負けるはずがない。負けるはずのない選挙に出ない手はない。

 第3は、後継者がいないこと。自分が辞めて、誰が後継者になるのか。特定の固有名詞を頭に浮かべる。その誰もが自分より能力で劣る、経験不足である。これでは辞められないではないか。

 第4の理由。首長として、やり残したことがある。それを中途半端なままにして、辞めることは無責任である。(筆者注)どこで辞めても、懸案事項は残る。それがあるから辞められないのなら、永久に辞められないことになる。

 第5の理由。周りが辞めさせてくれない。(知事の場合)県内の市町村長から出馬要請がある。地方議会の主要会派が推薦してくれる。関係団体の後押しもある。後援会も「辞めるな」と迫る。

 最後の理由。首長を辞めても、他に何もやることがない。(筆者感想)死ぬまで首長やっていたらいいでしょ。

 私は宮城県知事を57歳で辞めて、大学教授の職を得た。61歳では雇ってもらえなかったはず。正直に言うと、同じことを12回以上繰り返すことの単調さに耐えられなかったということもある。

 そういった個人的事情で知事を辞めることにした。「権力は長くなると腐敗する」という立派な理由ではない。いずれにしても、こういった「辞める理由」を持たない首長の場合、いつまでも、どこまでも多選を目指す。自治体住民(有権者)が多選について反対多数とならない限りは、いつまでも、どこまでも現体制は続く。

 そこの自治体住民としてはそれで満足なのだろう。だとしても、外から見る目はちょっと違う。侮蔑、冷笑、反感とまではいかないまでも、「多選首長を持っているなんていいな、とてもうらやましい」とはならないことは確かである。  


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