浅野史郎のWEBサイト『夢らいん』

 

月刊ガバナンス平成22年12月号
続アサノ・ネクストから 第3

リーダーシップとは

 菅首相のリーダーシップが問題になっている。野党側から、しきりにリーダーシップ不足という指摘がなされているが、国民の間でも「何も決めない、何もやらない菅首相」という見方が広がっている。私としては、そんなことはない、全般的に、やるべきことはやっているし、決めるべきことは決めていると思っているが、地域主権の実現ということではどうだろうか。期待されるリーダーシップを発揮しているかというと、今のところ疑念が残る。

 地域主権推進一括法案は、前国会で継続審議となり、臨時国会での成立が期待されるが、内容としては121条項の義務付けの廃止である。「国と地方の協議の場」の設置法の成立も期待されるが、これでこと足れりということでは全然ない。国の出先機関の廃止を含む見直し、地方への税源、財源の移譲、補助金の廃止を含む見直しなど、地域主権の根幹に関わる論点が未解決で残っている。

 こういった施策の転換を進めていくやり方が、地域主権を進める方向とまったく一致しないことが大いに気になる。たとえば、国の出先機関の廃止であるが、どんなものなら廃止できるのかということを各省に検討させて回答してもらうという手順を踏んでいる。各省としては、自分の手足をもがれるような案を出すはずがない。

 補助金の一括交付金化も同様である。各省とすれば、自分たちの影響力を保持するような形での一括交付金化を目指すであろうことは、考えるまでもない当然のことである。地方にとっては、ほんの少し自由度が増すという程度のことはあっても、それで地域主権が実現したと見ることはできない。

 「地域主権の実現を邪魔する霞ヶ関官僚たち」といって、非難するのは、筋違いだろう。各省にとっては、このような行動を取るのは、立場上も当然のことであるからである。そんなことは、地域主権改革を進めるにあたって、そもそもの前提でさえある。ここでこそ内閣総理大臣のリーダーシップが発揮されるべきものであり、それがなければ、国と地方のかたちを根本的に変える、革命ともいうべき事業が成就するはずがないではないか。

 「地域主権の実現こそ、民主党の政策の一丁目一番地」と言う。ただし、その中身は、民主党議員の中でも一致しているわけではない。そもそも、何のために地域主権を実現するのかという理念でも、それぞれの論者ごとにまちまちである。これをきっちり言語化し、その理念を共有し、実現に心と行動をひとつにするようにリードするのが、総理大臣の役割である。それがリーダーシップというもの。

 小泉純一郎内閣時代の三位一体改革が、まったくの骨抜きになってしまい、地方分権の推進というよりは、「三位一体改革は地方財政を厳しくするもの」といった結果になってしまったのは、最後の最後の局面で、小泉首相が指導力を発揮せず、霞ヶ関のやり方に丸投げしてしまったことが原因である。

 総理大臣に「言うことをきかない省の大臣は辞めさせる」という覚悟と実践がなければ、こんな天下の一大事は成るはずがない。地域主権の実現が民主党政権の一丁目一番地であるというのなら、ここでこそリーダーシップは発揮されなければならない。


TOP][NEWS][日記][メルマガ][記事][連載][プロフィール][著作][夢ネットワーク][リンク

(c)浅野史郎・夢ネットワーク mailto:yumenet@asanoshiro.org