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月刊ガバナンス平成25年1月号
続アサノ・ネクストから 第28

新政権に望むこと

 昨年12月16日の衆議院議員選挙を経て、年末の特別国会で首班指名が行われ、新しい年の始めには、新政権が発足している(はず)。新政権に期待するのは、地に足のついた、堅実な政権運営である。政権が、その期待に応えるための条件を三点あげよう。

 第一は、国民の多くを巻き込んだ興奮状態、熱狂気分から早く自由になること。選挙は戦いであり、戦いはある種の興奮状態を生み出す。熱狂は、理性、知性、沈思黙考とは無縁である。「郵政改革」、「政権交代」の言葉は、国民の多くを呪術的興奮状態に置く力を持った。郵政改革が本当に必要なのかは二の次であり、政権交代が何をもたらすかも、深くは考えなかった。今回の衆議院議員選挙では、「第三極」、「国のかたちを変える」がそれにあたるだろう。

 「郵政改革」の実態がどうなったか、「政権交代」は国民の期待に応えたか。政権は三度目の失敗を犯し、国民は三度目の幻滅を味わうことになってはならない。

 第二は、「官僚制の打破」などという、国民受けのするお題目を念頭に置いた「政治主導」に迷いこまないこと。民主党の失敗から学ばなければならない。本当の意味の政治主導を貫徹するためには、官僚を使いこなすだけの政治的力量が政治家側になければならない。

 現在、国民の中にある政治不信の中身は、政治家不信である。国民は、政治家の力量不足を見抜いている。むしろ、昔に比べても、政治の劣化、政治家の質の低下は顕著である。政治主導など望むべくもない。

 真に力のある政治家が多数選ばれ、政治家が自ら力を付けるまでは、「政治主導」は、おそるおそる、段階を踏んで進めていかなければならない。実際には、劣化する政治を支えていたのは、官僚組織である。それなのに、昨今の官僚叩き、見当違いの政治主導の中で、官僚のやりがいが失われつつある。優秀な学生が外資系金融機関などに流れ、官僚の質的低下が深刻である。この流れは、ここでぜひとも食い止めなければならない。

 第三は、新しい総理大臣は四年間きっちり務め上げること。どんな人が首相になろうとも、いずれ、野党はもちろんのこと、各方面からの批判、非難にさらされる。政権発足から時を経るごとに、内閣支持率は低下していく。首相や閣僚の失言や失敗もあるだろう。しかし、そこで辞めてもらっては困る。内閣不信任が成立しない限り、首相は辞めさせられないのだから、自分から衆議院を解散して、首相の座を中断することなど考えないほうがいい。よりましな首相が一年ごとに替わるよりも、出来の悪い首相が四年間続くほうが、国民にとっては、よほどいい。もちろん、出来の悪さがよほどのものでない限りという限定づきではある。

 毎年首相が替わることが、外交の舞台で、どれだけ日本の威信を傷つけ、国益を害しているか。大臣も四年間続けること。そのためには、内閣改造はやらない。「適材適所の配置です」というのが、内閣人事の際の首相の常套句であるが、その大臣を替えたら、「適材適所」は嘘になる。総理大臣だけでなく、大臣も四年間、きっちり仕事を続けてもらうことによって、政権の力は高まるはずである。


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