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月刊ガバナンス平成24年11月号
続アサノ・ネクストから 第26

続民意とは何か

 民意とは何か。単純な世論調査では民意は調べられない。手間隙かけた調査なら、民意に沿った結果が得られるか。一つの答が、「討論型世論調査」である。

 討論型世論調査では、無作為で選ばれた対象者のうちから、希望する人たちが調査に参加する。参加者には、「消費税増税の是非」といったテーマについての資料を読んでもらう。さらに、専門家の意見が紹介される。次に、小グループに分かれて、テーマについて議論をする。議論に参加し、専門家の説明を聞いたことによって、参加者の当初の意見が変わることがある。むしろ、そのことが、この調査手法では期待される。

 将来のエネルギー政策を考える「討論型世論調査」が、この8月、2日間にわたって行われた。その結果は、2030年時点の原子力発電への依存度ゼロを支持する参加者が討論を通じて33%から47%に増えた。これと同じ時期に実施されたパブリックコメント(意見公募)では、「即時の原発ゼロ」を求める意見が全体の81%に上った。

 民意は「原発ゼロ」だから、それに沿った政策に結びつけるのが「スジ」であろう。しかし、経済界からの反発があり、米国からの「圧力」もあったらしい。「2030年代に原発稼働をゼロ」とするエネルギー・環境戦略は参考文書としての扱いにとどめて、「柔軟性を持って不断の検証と見直しを行う」といった、わけのわからない「基本方針」だけを閣議決定した。政権にとって、「民意尊重」とは、この程度のものであることを露呈した「事件」である。

 毎週金曜日に、首相官邸を取り囲む原発反対デモも、民意の表れの一つである。15万人(主催者発表)が参加するデモであっても、政権は、民意としては認めない。しかし、参加人数が多いこと、動員ではなく、自然発生的であること、一過性でなく長く続いていることなど、これまでのデモとは、明らかに違っている。これがさらに大きな動きとなったら、政権としても、無視できなくなるだろう。

 民意ということで、最後に、議員の「存在意義」について考えてみる。地方自治体は、なぜ、首長と議会の二元代表制をとっているのだろうか。議会は、多数の議員からなる。首長は一人である。しかも、行政の執行責任者として多忙である。民意を吸い上げるのに、どちらに分があるだろうか。

 議員の日常活動は、住民の中に入って「御用聞き」をすることが中心である。「何か困っていることはないか」と聞いて回る。住民の生の言葉から、あがってきた要望が「民意」としてとらえられる。多くの議員が、同じような要望を受けているなら、それを議会は政策として打ち出す。二元代表制は、首長と議会の「善政競争」を期待したシステムである。問題は、各議員が、そのことを自分たちの存在意義として自覚しているかどうかである。

 民意を引き出すことが、インプットの問題であるのに対し、街頭で、自分の主張を住民に訴えるのは、アウトプットの活動である。アウトプットより、インプットが大事。これは、国会議員も同じこと。民意を引き出し、それを元に政策を打ち出す専門家を任じて欲しい。


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