月刊ガバナンス平成24年10月号 民意とは何か 「決められない政治」に象徴される我が国の政治状況は、混乱そのものである。その原因の多くは、民意が政治に反映されていないことに帰せられる。「民意とは何か」、「民意を政治に反映させるために何が必要か」、そういった観点からの総点検が必要である。今回は、大阪維新の会の公約を「教材」にして、考えてみた。 大阪維新の会が公表した「維新八策」の中に「首相公選制」がある。「人気投票になることを防ぐ」との補足があるが、そのためにはアメリカの大統領選挙のように、党内の予備選挙の段階から、候補者同士で、どちらの政治的資質が優れているか、国民の前で徹底的に試されるようなプロセスが必須要件である。そういったプロセスが、我が国で根づくかどうか。 公選を経た首相は、国会で多数を占める政党の支援を受けられる保証はない。国会との「ねじれ」により、今以上の「決められない政治」に陥る可能性大である。 同じく「維新八策」にある「道州制」について。この問題についての自治体住民の意向がわからない。自治体住民は、道州制を望んでいるのだろうか。道州制の仕組みの詳細はもとより、導入された場合の自治体(住民)への影響もわからないままに、「現在の日本の閉塞状況を打ち破るには道州制しかない」という為政者の中だけでの盛り上がりに、乗せられているのではないのか。 同じようなことが、大阪都構想にもいえる。行政の都合が優先した議論の中で、為政者によって「これこそ起死回生の政策」とされたからといって、住民レベルでも大歓迎となるのかどうか。これから、大阪市や堺市の区の再編など、具体的な実施段階になったときに、住民は「あれっ、そういうことだったのか、だったら賛成できない」ということにならないだろうか。 橋下徹氏は、大阪市長選挙で当選した後、「有権者が私を選んだということは、選挙の際に挙げた公約に同意してくれたということだ」という趣旨の発言をした。選挙の際の「民意」をそこまで拡大解釈してはならない。選挙では、リーダーシップ、政治的手腕に期待して、橋下さんに投票した有権者でも、橋下さんが掲げた公約(すべて)に賛同、共鳴して投票したとは限らないからである。 維新八策では、「衆議院議員定数の半減」が話題を呼んだ。問題提起としては、傾聴に値する。しかし、「狭い選挙区だと、ミクロな声に縛られすぎて、国民の声をすくい上げる仕組みにならない」という理由には、異議がある。「民意をすくいあげる」とは、議員(候補者)による「御用聞き」のことである。御用聞きは、ある程度限定された地域を対象にするから成り立つ。広すぎる選挙区では、それがむずかしい。 ついでに、橋下氏は、「狭い選挙区だから、国会議員が盆踊りや葬式にばかり行っている」と言うが、これは有権者が候補者を選ぶ理由として、政策立案能力や政治的能力ではなく、知名度、親しみ度など、わかりやすいことを優先するからである。選挙区の広い狭いには関係ない。 次回は、世論調査、国民(住民)投票、地方議会の役割、「御用聞き」、原発反対デモについて論じる。
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