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月刊ガバナンス平成24年7月号
続アサノ・ネクストから 第22

原発再稼動決定の手続き

 関西電力の大飯原発3、4号機の再稼動問題は、紆余曲折を経ながらも、政府が再稼動を決定して、一応の決着がついた。ここでは、その結論の是非を問うつもりはない。決定までの手続きに問題ありとして、手続き論からの批判を試みたい。

 再稼動決定までには、いくつかの手続きが必要である。まずは、原発再稼動の安全性が確保されているかどうか、これが再稼動の是非を決める唯一の判断基準である。これは政府も認めるところであるし、一般にもそう受け止められている。それなのに、「再稼動がされなければ、真夏の需要ピーク時に電力需給が逼迫し、国民生活、企業活動に深刻な支障が出る」といった情報が、政府側から何度も流された。こういった動きが「安全性が第一」という判断基準をあいまいにした可能性がある。これが×1。

 原発の安全性の確認にあたっては、原子力安全保安院が審査し、その結果を原子力安全委員会が確認するという、ダブルチェック体制がとられている。安全委員会の斑目委員長は「ストレステストだけでは、安全性評価に不十分」という趣旨の発言をしている。そのことを知りつつ、政府は再稼動にゴーサインを出した。これで×2。

 さらには、原子力安全保安院に替わる原子力規制庁が発足していない中で、大飯原発については、規制庁の承認なしに運転再開となった。それが許されるなら、規制庁の承認は今後とも、原発の再稼動においては必要ないという、おかしなことになる。これは×3。

 地元自治体の同意が得られるかどうかが、今回の大飯原発再稼動における手続き論の焦点であった。福井県知事の同意が得られたというが、首長の意思=地元自治体の住民の意思ではない。前回の「民主主義の危機」でも、この点には触れておいた。原発再稼動は、原発再稼動は住民生活に大きな影響を及ぼす大問題である。小さな子どもを抱えた母親たちは、福島第一原発の事故のありさまを目のあたりにして、不安感を払拭できない。そういった住民が再稼動にどういう意見を持っているか。それを調べる努力がなされていない。これは△の1。

 再稼動についての住民の意思を住民投票で問うのに現実性がない中では、議会が住民の意思を反映した決定をするのが次善の方法である。おおい町議会にも、福井県議会にも、この局面で住民の意思を探る動きが見られないままに、再稼動容認の方向を出したことは残念である。自治体運営における二元代表制の原則に立ち返って、議会として存在感を示すいい機会であったのに。これは△2にあたる。

 今回、大飯原発の再稼動を政府が決めたことを批判しているのではない。脱原発、反原発の観点からの反対論は、また別なところでやってもらえばいい。問題としているのは、再稼動決定に至る手続き論である。「なぜそんなに急ぐのか」、「結論が先にあってのストーリーではないのか」という疑問をぬぐえない。行き着く先は、「政府は信頼できない」である。そのことこそが、政権運営を揺るがす時限爆弾であることを、政府は思い知らなければならない。


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