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月刊ガバナンス平成24年3月号
続アサノ・ネクストから 第18

税と社会保障一体改革

 民主党政権が進める「社会保障・税一体改革」に胡散臭さを感じている。消費税増税をなんとしても実現なければならないと、野田政権が思い詰めているのはわかる。実際のところ、これが実現しなければ、近い将来の財政破綻は免れない。そのことを正々堂々と、わかりやすく国民に向かって説明すればいい。私が胡散臭いと感じているのは、消費税増税を社会保障改革と「一体で」考えるとするところである。

 「一体改革」を担当する副総理に就任した岡田克也大臣の発言が、波紋を呼んだ。今回の社会保障改革では、年金制度の抜本改革はやらないという発言である。年金制度の抜本改革はやらず、消費税増税を先行させる。これで「一体改革」と言えるのか。私にとっても、大きな疑問である。

 そもそもが、消費税増税を社会保障改革と「一体で」実行するということがおかしい。悪い言葉であるが「社会保障改革をダシにして、消費税増税を言い出す」という姿勢が気に入らない。この姿勢からは、「社会保障のためにという説明をすれば、国民は消費税増税を受け入れてくれる」という魂胆が見え隠れする。

 本当に一体的に改革するというなら、社会保障の改革と税制改革(消費税増税)が連動しなければおかしい。政府の意図と違う形で連動したのが、最低保障年金を導入すれば、その財源として消費税率を17%にまで引き上げる必要があるという試算である。(「7万円の最低保障年金の導入」については、その財源をどう確保するのかの問題だけでなく、そもそも、救貧機能を年金に求めることは適当でないこと、保険料を払い続けた人とのバランスを欠くことになることなど、大きな疑問がある。そのことは、また、別に論ずることにする) 

 まず8%、その後10%への引き上げを図る改正案を抱えている政府としては、この試算が表に出ると新たな議論を招くことを危惧したのだろう。試算そのものを引っ込めることにしたが、この動きを見るだけでも「一体改革」なるものが、眉唾であることがわかる。

 社会保障の財源確保のためということを前面に出して消費税増税を論じることは、論理的にも、実際上も辻褄が合わなくなることも、ここで指摘しておかなければならない。「それなら、消費税を社会保障財源にのみ充てる目的税にするべきだ」というのが論理的帰着であろう。目的税にしないまでも、今後、社会保障財源が増大するのに合わせて、消費税率を上げていかなければならない。そんなことができるのか、適当なのか。その辺のところをあいまいにして、「一体改革」と言って欲しくない。

 消費税増税に反対ということではない。再度言うが、消費税増税の必要性を正々堂々と説明して、国民の理解を求めるべきである。社会保障財源確保だけが増税の理由ではない。財政再建が急務であることも、現状と将来見通しの数字を示しつつ説明すればいい。国民の多くは、既にそのことは承知している。消費税増税が不可避であることも理解している。日本国民の現実認識と良識を信頼して、税制改革を進めるのが政治の役割である。


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