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月刊ガバナンス平成24年2月号
続アサノ・ネクストから 第17

消費増税と政治

 消費税について、昨年末に、政府税制調査会が「2014年4月に8%、15年10月に10%」と消費税率を段階的に引き上げる案をまとめた。その後の与野党協議を経て、消費増税法案の年度内提出を目指す。

 「景気悪化の中の増税は不見識」、「増税の前に国会議員定数の削減など、身を切る改革を」として、消費増税反対の意見もある。議員の中には、「次の選挙が怖いから賛成できない」というのもあるが、反対理由は正論ではある。そういっても、消費増税はやりぬかなければならない。

 増税がなければ、財政危機を招き、国家破綻もありうるとか、社会保障の崩壊につながるとか、それだけが理由ではない。総理大臣が、「やるべし」と決断したからには、増税はやらなければならない。なぜなら、税金は政治そのものであり、この問題で政権が方向性を示し、実行しなければ、政権担当の意義が問われるからである。

 消費税増税という目標を定めたのだから、実現に向けて突き進めということだが、条件がある。増税によってもたらされることについて、悪影響も含め、国民にしっかりと説明することが必要である。隠すな、ごまかすな。原発事故に関連して、政府の流す情報への国民の信頼感が崩れている中では、ここは率直に、そしてわかりやすく伝えなければならない。

 隠さず、ごまかさず説明するだけでなく、情熱をこめて国民に訴える姿勢が必要である。小泉純一郎首相による「郵政民営化」は、国民が論理に納得して支持したのではない。小泉首相が訴える言葉の力に圧倒されたのである。「自民党をぶっ壊す」、「郵政民営化なくして改革なし」という迫力に押された。増税は、国民とって苦い薬である。論理は理解しても、心が納得しなければ、飲み込めない。野田首相に求められるのは、国民を前にして、「増税は絶対に必要」の信念を情熱的に語ること、この問題に自分の政治生命を賭けるという覚悟を示すことである。

 橋下徹大阪市長が、選挙において、大阪都構想を真摯に、情熱的に有権者に訴えた姿を想起すべきである。住民にとって、大阪都構想は望ましい結果をもたらすのか、それもわからない中で、橋下市長の信念、実行力は誰も疑わない。「彼があそこまで言うのだから、いいことのはずだ」と受け入れ、支持したのが実態である。

 税金は政治そのもの。名古屋市の市民税減税条例がそのことを如実に示している。名古屋市議会は活発な議論を展開し、市民の市政への関心が高まった。

 繰り返すが、税金は政治そのものである。増税にしろ、減税にしろ、それを実行するのが政治家の役割であり、政権はその主役である。その中心が内閣総理大臣であるのだから、この問題で主体的に動き、結果を得ることに全力を挙げるのは当然である。民主党内に消費増税反対派が多数いて、中には離党する議員もいる。そんなことも、国会内での数合わせも、気にしなくていい。野田首相は、政治家としての信念を強く持ち、そのことを示しつつ、国民への誠心誠意の説得さえ忘れなければ、それでいい。やる時はやる。そして今こそがやるべき時である。


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