![]() 月刊ガバナンス平成23年11月号 民主党内議論と小沢氏の存在 野田首相の手堅い政治手法、党内融和重視の党内運営は、それなりに機能している。気になるのは、党内議論のあり方である。 マニフェストの扱いであるが、「マニフェストの堅持」にこだわる必要はない。子ども手当て、高速道路無料化、農家戸別所得補償、高校無料化は、必要であり、有効な政策である。しかし、あてにしていた財源の「政府支出における無駄」や「埋蔵金」は、想定額には、遠く及ばない。マニフェストは財源の裏づけがあって成り立つものである。財源想定の甘さを認め、「ごめんなさい」の言葉とともに、主要施策を見直すべきである。 復興増税の政府・民主党案にも言及したい。内容についての批判としては、増税の開始時期が遅い、増税期間が長過ぎるということだけにしておこう。むしろ、党内議論の経過から透けて見える「増税アレルギー」が大いに気にかかる。これは、復興増税問題だけでなく、「社会保障・税の一体改革」での消費税増税の扱いにも共通である。「増税は景気の足を引っ張る」という論はもっともらしい。だが、反対論の背後に「増税アレルギー」が透けて見える。「選挙がそんなに怖いかね」とも言いたくなる。 議論の中身以上に気になるのは、「その意見は、小沢一郎さんの意向そのままではないのか」ということである。民主党内の「小沢グループ」とか「小沢チルドレン」という人たちには、「そろそろ、自分の頭で考え、自分の意見に責任をもって行動する時期ではないのか」と申し上げたい。 小沢一郎議員の元秘書による政治資金規正法違反事件の裁判において、東京地裁は、有罪判決の中で、小沢事務所の建設業者との癒着、地元工事における「天の声」の発出、裏金授受を「推認」した。小沢陣営の資金集めのシステムが、古い手法そのものであることを示している。 小沢一郎さんが、選挙の戦い方として強調するのは、「毎日辻立ちして演説せよ」、「地元の住民の中に入って、汗をかけ」といった地道な手法である。高邁な理論と理想だけで選挙を勝ち抜けると勘違いしている民主党議員に対する「選挙の原点に戻れ」という貴重な助言である。 一方で、ゼネコンを締め上げ、下請けの作業員まで動員する「組織ぐるみ」、利益誘導の選挙手法が見え隠れする。1997年、私が二期目を目指して宮城県知事選挙を戦った時に、対抗馬の応援に回った小沢一郎さんが取った手法は、絵に描いたような「古典的集票システム」だった。 政治理念がどんなに立派でも、掲げる政策がどんなに斬新で新しいものであっても、選挙の手法、選挙資金の集め方が古いままであるならば、その政治家を新しい時代にふさわしい存在と見ることはできない。短い政治経験ではあるが、「選挙のありようが、当選後の政治家のありようを決める」という私の信念は揺るがない。 「小沢シンパ」と見られる民主党議員に言いたい。「増税、マニフェスト維持、TPP論議など、重要案件については、小沢氏の意向からは自由になって考え、行動しようよ」。「いやいや、元々そのつもりです」と反論されるかもしれないかな。
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