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月刊ガバナンス平成23年7月号
続アサノ・ネクストから 第10

国会の使命・地方議会の役割

 大震災と原発事故、この国難の中で、改めて国会と地方議会の役割について考えてみたい。

 日本の国会は、「唯一の立法機関である」(憲法第41条)。しかし、実態は、LAW MAKERではなく、LAW PASSERと揶揄される存在である。議員提案の法律はほとんどなく、もっぱら、内閣提出の法律案を通す(通さない)だけやっているのだから、法律立案者ではなく、法律通し屋さんという見方である。

 菅政権への批判として、「震災対策への対応が遅い、内容も十分でない」という声が、野党からのみならず、与党議員からも、参議院議長からも聞かれる。「だったら、お前が(国会が)やれよ」というのが、私の言い分である。実は、同じことを、6月1日の朝日新聞「オピニオン」で憲法学者の田村理(おさむ)さんが主張している。

 災害時には、国会が立法措置により、緊急対応をするのが原則とされていることが、災害対策基本法の第  109条を読むとわかる。「国会が閉会中には、内閣は、必要な措置をとるため、政令を制定することができる」という条文は、「必要な措置をとるのは、本来は、国会の仕事、内閣がやるのは例外」と理解できる。これも田村教授の説くところである。国会が立法措置を行うことは、特別の意義がある。立法に至るまでの議論が、国民の見えるところで行われることが期待できるからである。

 首相と国会、どちらがいい政策を打ち出すか競い合う。災害への対応が急がれる時期に、改めて、国会の本来の使命を思い起こそうではないか。特例公債法案を人質にとり、菅首相が辞めなければ法案は通さないといった低次元のゲームにうつつを抜かしている国会の現状を見れば、「国会の使命」を言うことの空しさを感じるが、そこであきらめてはならない。

 地方議会について。5月号のこの欄で、「被災地の自治体では、議会が事実上機能していない。それで、住民にどんな不都合が生じているのか」と書いた。私自身が考える「不都合リスト」のトップは、被災者の声が行政に届かなくなるということである。

 議員は、住民に身近であり、住民の声を親身に聞く立場にある。住民から同じような要請を受けた議員がまとまり、解決のための施策を議会として打ち出すことができる。それを首長に提案し、受け入れられなければ、条例制定で対抗するぐらいの気まがえで、議会が一致団結してあたれば、首長も要請を受け入れざるを得なくなる。

 首長は、忙しい。直接住民の声を聞く機会は限られる。行政スタッフは、日々の行政事務の執行に忙殺される。上からの指示がなければ、動かないという傾向もある。住民の声を吸い上げ、それを施策化する、政策立案する役割は、議会に負うところが大きい。

 平時においては、この役割は発揮されることが少なかった。せいぜい、行政へのお願い、陳情の窓口になる程度であり、政策の立案までは至っていない。住民の切実な願いが凝縮している災害時だからこそ、議会はその役割を自覚せざるを得ない。住民も、そのことを期待している。むしろ、この時期だからこそ、被災地の議会は、大活躍をすべきである。


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