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月刊ガバナンス平成18年5月号
アサノ・ネクストから 第5

これが行政改革?

 政府は、国家公務員の5年間での5%以上削減と5省15分野での公務員削減計画を打ち出した。こういうやり方が行政改革の名にふさわしいのかどうかには疑問が残る。

 行政改革は、組織をなくすとか、公務員の数を減らすことではない。不要な仕事をなくす、仕事の仕方を変えることであって、会社で言えば経営の仕方の問題である。マネジメントをどうするかと言い換えてもいい。行政の対象であるお客様、つまり国民、住民にとってどうか、そして国民から見てどういう行政のやり方が望まれているのかの視点がなければ行政改革の方向性は打ち出せない。

 仕事のやり方、組織の守備範囲については、地方自治体との役割分担の発想がなければどうにもならない。補助金分配業を仕事の主力とするような組織を温存するというのでは、行政改革など言い出せないはずである。三位一体改革を「3兆円の税源移譲の達成」という数字合わせで終わらせようというのが、霞が関によるこれまでの対応である。補助金つきの事業をやめて根っこから自治体に任せるという発想が出てこない中での行政改革の掛け声など、まるで空虚に響く。

 仕事のやり方のことについては、気になることがある。知事時代に、長野県の田中康夫知事をヘッドとして「国の行財政改革の見直し」についての研究会を立ち上げた。給与問題、情報公開、公共事業発注方法などの大きい課題とは別に、私が問題提起したのが、霞が関における遅刻常習の問題であった。霞が関では朝の出勤時間が自治体に比べれば極端に遅い。仕事が夜遅くなる、通勤に長時間かかるというのは言い訳にならない。民間企業も同様の状況であるが、遅刻は常態化していない。つまりは、こういう場面でのマネジメントが機能していない。「遅刻してはダメだぞ」と命令する存在がないということである。自治体では、遅刻常習などということが住民の目にさらされる前に、知事をはじめとしたマネジメントが規律の保持をきっちり実行する。その点、霞が関の緊張感のなさはどうしたものだろう。

 「たかが遅刻ごときに目くじら立てるな」などと言うなかれ。こんな規律も守れないような組織に、もっと高次な規律の保持を期待できるだろうか。官官接待全盛時代には、「たかが官官接待に目くじら立てるな」とまではいかなくとも、「我々は接待受けて当たり前」というおごりが霞が関側になかったかどうか。「遅刻して当たり前」というのに通じるところがある。

 行政改革は、こういったことから始めなければ成功しない。遅刻をなくすことに努力しろという意味ではない。遅刻をなくせるようなマネジメントのシステムを確立すべしということである。そういったシステムが機能すれば、官製談合などといったみっともないことは起こるはずがない。

 こんなことを考えているので、公務員の5%削減が行政改革なのだろうかという疑問が湧いてくるのである。もっと根本的なところで、霞が関及び地方出先機関での仕事のやり方を見直すという発想がない限り、真の意味での行政改革の成功はおぼつかない。


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