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月刊ガバナンス平成21年5月号
アサノ・ネクストから 第39

「小沢民主党代表の去就」

 小沢一郎民主党代表の公設第一秘書が、政治資金規正法の虚偽記載で起訴された。起訴された日の記者会見で、小沢代表は「当面、代表を辞任するつもりはない」と語った。今後の状況次第では辞任という選択もあり得るということだろう。だから、この原稿は、「いずれにしても」という感覚で書くことになる。

 「いずれにしても」、政治家にとって、政治資金の集め方は、政策をどうするのかと並んで、自分の全存在を賭けて、自分で決めるべき極めて大事なことである。政治資金規正法に抵触するような資金の集め方は論外であるが、法律上は許されても、政治的に適当かどうか、一般国民の理解が得られるかどうかは、別問題である。

 宮城県知事だった私の場合、企業、団体からの献金はいただかないという方針を立てて、最後まで守り続けた。こういった方針としたのは、前知事のゼネコン汚職による逮捕を受けての出直し知事選挙だったということも、大きな要因ではあった。さらに言えば、知事という職責を果たすにあたって、特別の事務所はいらないし、政務の秘書を置く必要性もない。選挙対策ということでは、日常的な仕事を通じて県民にアピールするべきものだし、また、マスコミに取り上げられることもほぼ毎日なので、名前を売り込む努力も不要である。つまり、お金はかからないということである。

 確かに、国会議員は事情が違う。いずれにしても、大事なことは、政治資金の集めかたについて自分の立てた方針を、実際に資金を扱う人たちにまで徹底することである。私の場合であれば、「企業、団体からの寄付は絶対断れよ。資金集めパーティーはやらないからな」ということを、誤解の余地なく伝え、私が本気であることを示した。ここまでやって、政治家としての責任が全うされることになると信じている。

 そういう観点から見れば、今回の小沢代表の公設第一秘書が逮捕されたことは、小沢代表の方針が不徹底だったことを意味する。「俺は知らなかった」ということは、政治家本人の責任を果たしていなかったことを示すだけである。しかも、ひとつの建設会社から多額の献金を受け続けること自体、民主党の党是にも合致しないことではないのだろうか。

 ことは、どうしたら民主党の政権獲得に有利かという戦術論ではない。「小沢代表の説明に納得できない」、「代表を辞めるべし」という意見が、世論の大勢であることも、考慮すべき要因であるが、それだけでない。

 それよりも、なによりも、今回の事態は、刑事裁判に関わることである。小沢一郎という衆議院議員個人が、自分の正しさを司法を通じて闘い取っていくことは、政治家としてのスジであろう。しかし、この闘いは、民主党とは関係ない。しかも、民主党代表は、次期総理大臣を目指す立場である。総理大臣として、こういった裁判闘争を抱えたたまで、職務を果たせるのかとの疑問を払拭し得ない。身軽になるべきだし、スッキリするために、代表の肩書きははずしたほうがいい。この原稿が活字になる時までには、正しい結論に達していることを期待している。


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