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月刊ガバナンス平成21年1月号
アサノ・ネクストから 第35

「税金こそ民主主義」

 表題は、「税金をどう取るかを決めるのが民主主義」という趣旨である。最近の地方自治のあり方や、国の政治の方向を見るにつけ、民主主義の危機を感じる。

 ほんものの民主主義をこの国に根付かせたいと思い続けてきた。「ほんものの民主主義」の反対語は「お任せ民主主義」。政治に対する国民の無関心と、ほぼ同義語である。

 08年の3月ごろには、国民への政治への関心が高まった。その契機は、ガソリン税の暫定税率問題である。1リットルあたり25.1円の暫定税率の期限切れを迎えて、これを延長すべきかどうかで、議論が巻き起こった。国会では、民主党の反対で延長法案が通らず、3月末で期限切れとなり、4月1日には、ガソリンの値段が下がった。衆議院での3分の2での再可決で延長法案が通り、5月には元の値段に戻ったが、国民はガソリンスタンドに行くたびに、暫定税率のことを考えざるを得ないことになった。

 暫定税率のことを考えるところから、その使い道として、道路特定財源の堅持か一般財源化かという問題にも、関心が移っていく。税金一般についても、考えを深める契機になっただろう。

 麻生内閣は、未曾有の経済危機に対応するために追加経済対策を発表し、09年度予算案においても、歳出拡大路線を選択した。個々の歳出項目のよしあしはともかく、この歳出拡大をどういった財源で支えていくのかの議論が、あいまいになっていることが問題である。税制をどう変えるのかについて、確固たる方針が示されていない。

 たとえば、消費税の問題。税率引上げの幅、時期が明示されていない。引上げは国民に不人気で、選挙対策上も得策でないと考えて、あいまいにしているとすれば、大きな心得違いである。引き上げやむなしという意見と引き上げ反対とは、数の上では拮抗している世論調査の結果をどう見るかだけではない。そもそも、税金をどうするかについて、明確な方向を出さないで政治をやること自体が、不健全であると言いたい。

 歳出を伴う施策をどうするか考えるのは、官僚で十分である。しかし、税制は官僚任せでは、どうにもならない。税制や社会保険の負担をどうするか、これを決めることこそが政治の役割であり、民主主義の基本である。

 夕張市の財政破綻に関連するが、「谷底の観覧車」という、悪い冗談のようなものの建設が見逃されたのは、「これを作るのに、市民に新たな税金を課します」という仕組みになっていなかったからだろう。新銀行東京への400億円の追加出資のためには、都民一人当たり3000円強の新規負担が求められるとしたら、都議会だけに議論を任せるということが起きたかどうか。税金の問題になって、納税者たる住民が、地方自治のありようを真剣に考えることになる。

 国政も同じ。来るべき解散総選挙において、歳出を支える財源をどうするか、つまり、税制の姿を国民の前に提示しないマニフェストは、内容の是非の前に、マニフェスト失格である。有権者の側も、民主主義とはなんぞやという意味で、しっかりと目を開いて対応することが求められる。


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