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月刊ガバナンス平成20年9月号
アサノ・ネクストから 第31

「橋下劇場の顛末」

 4月号の本欄で書いた橋下徹大阪府知事の改革について、もう一度取り上げることにする。

 橋下知事の財政再建策を盛り込んだ大阪府の2008年度補正予算は、7月23日、府議会本会議で賛成多数で成立した。前年度に比べて、一般会計でマイナス10%、3309億円減の2兆9247億円となった。削減案の中には、府職員給与の平均11.5%の引下げも入っている。

 財政再建案を含む「大阪維新プログラム案」が発表された6月5日の記者会見の模様を、私は、たまたま、リアルタイムの映像で見ていた。橋下知事は、集まった記者たちに気を配り、続いて、寝食を忘れて案づくりに邁進した府職員を「日本一の職員」と褒め称えた。

  プログラム案を説明するにあたっては、原稿を読み上げるようなことはせず、自分の言葉で丁寧に、メリハリをつけて話しているので、説得力がある。「案の内容には、何もいいことがない、当面の出血を止めるだけのもの」という言い方は、開き直りと紙一重であるが、率直さで府民の心に迫るものがあると私は受け止めた。

 さあ、これからは、府議会に舞台を移して、一大論戦だと期待した。これほど厳しい内容の削減案を含む補正予算を、府議会はすんなり通すはずはない。相当の議論が展開されるだろうと期待したが、さほどの波乱なしであったようだ。議員が、あまりの橋下知事人気に恐れをなして、提出された案にケチをつけたら、返す刀で府民に切られるのを気遣っての弱腰というのではないだろうが、それにしても、府議会での論戦は、活発とは言えなかったのではないか。

 最後の場面で、橋下知事が「悩みに悩んだ」修正案を提案し、府職員給与の削減幅と、私学助成の削減額を縮小したので、議会としても賛成せざるを得なかったということらしい。この修正で負担増になったのは、 高々18億円である。「悩みに悩む」ほどの額ではない。しかし、これで府議会に花を持たせることはできる。憎らしいほどの議会対策テクニック、恐るべき39歳である。

 今回の一連の流れは、「橋下劇場」と評される。言い得て妙である。府職員との賃金交渉も、リアルタイムでマスコミ公開であった。市町村長との対話の会で、橋下知事が泣いたというのも、マスコミ環視の下である。これでは、府民は、「知事がんばれ」となるではないか。府庁内での議論も、相当程度、オープンにされていたのにも、驚かされる。ごまかしの入る余地がない。府民を観客にした、まさに橋下劇場である。

 こういったテクニックに類することが効を奏したと見るのは、表面的かもしれない。そもそもの、橋下政権の成り立ちに立ち返って見れば、そのことがわかる。大阪府の財政再建を旗印に戦った知事選挙での圧勝が出発点である。自信を持って、財政再建まっしぐらに進むことができる。

  福田政権の発足と比べてみれば、その対比は、明らかであろう。福田総理が、自信なげで思いきった改革ができないのは、首相の能力、性格のせいではない。政権の成り立ち方が、いかに重要か。橋下改革を横目で見ながら、強く思う。


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