浅野史郎のWEBサイト『夢らいん』

 

月刊ガバナンス平成20年8月号
アサノ・ネクストから 第30

居酒屋タクシー

 「居酒屋タクシー」なるもの、霞ヶ関に出没して、その現象が当局のみならず、マスコミの知るところとなり、6月25日には、政府による調査結果が発表された。深夜帰宅のタクシー運転手からビールや現金などを受け取っていた国家公務員が17府省庁1402人おり、11府省庁の33人が国家公務員法に基づく懲戒処分を受け、この他に、118人に訓告・厳重注意などの処分がなされた。

 終電がなくなった後、役所から、個人タクシーの運転手の携帯電話に直接連絡してタクシーを呼ぶ。遠距離利用の固定客だから、個人タクシーとしても大事な顧客である。ビールを振る舞ったり、現金を渡すのは、顧客確保の手段として、必要なことと思うだろう。

 受け取るほうはどうなのか。遠距離で毎回使ってやっているのだから、これぐらいのサービスは当然と受け止める。自分のポケットから払っているのなら、それで何の問題もない。しかし、タクシー代は公費、税金からの支出であるから、話は違ってくる。

 自分の役人時代にも、タクシーでの深夜帰宅は結構あった。裏金づくり、官官接待が罪悪感なしに行われていた時代である。あのタクシー代は、正規の予算からの支出だったのかどうか、実のところ、よくわからない。

  現在は、状況が大きく違う。大蔵省の「ノーパンしゃぶしゃぶ」などの過剰接待を受けての国家公務員倫理規定以後の出来事である。地方自治体では、大幅な人件費カットもなされ、役所の財政状態の厳しさは、誰でも知っている。そういった中で、「居酒屋タクシー」なる現象が起きていることを、重く受け止めなければならない。

 なぜ、今、居酒屋タクシーなのか。国会待機をはじめ、役人の深夜勤務は、昔と変わらない。国家公務員倫理規定は厳しくなっても、実態として、守られていないということがわかる。財務省の額賀大臣の「こんなことが行われているとは、知らなかった」の発言でわかるように、各省では大臣によるマネジメントが機能していないことも明らかである。

 「これで全部ですか」という疑問は、各方面から投げかけられている。今回の身内の調査は、「正直者がバカを見る」といった本人申告制が中心でやられていた。第三者による客観調査、タクシー券と勤務記録の突き合せ、タクシー運転手からの聴取といった方法はとれなかったのか。処分されたのは、氷山の一角ではないかという疑問が払拭されない。

  「これで全部ですか」のもう一面は、一事が万事ではないかということ。居酒屋タクシーが重箱の隅だとすれば、重箱の真ん中あたりにも、腐った食べ物がないのかどうか。公金を使っているという意識が希薄であることが、居酒屋タクシーの原因だとすれば、公金の使い方で、他に変な事例はまったくないのかどうか。

  霞ヶ関で23年間働いていた人間としては、元の身内に厳しいようだが、地方自治体で不祥事を暴かれ、それに身をもって、真摯に対応してきた経験者としては、今回の居酒屋タクシーのことを、「居酒屋タクシーごときで大騒ぎするな」とはどうしても思えないのである。


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