浅野史郎のWEBサイト『夢らいん』

 

月刊ガバナンス平成18年3月号
アサノ・ネクストから 第3

県警犯罪捜査報償費の闇

 昨年11月の宮城県知事退任時の心残りの一つは、県警犯罪捜査報償費問題であった。県警とのやりとり、内部告発者との面談、他の警察本部での事案などから、私としては報償費の不適正執行を確信していた。県警は「クロ」であるが、自白がされていないだけのことという理解である。

 報償費が「協力者」に渡っていない例がある。一部は執行されているのか、執行されなかった金額が何に使われたのかについては、今の私にはわからない。ただ、ある年度の、ある課の報償費のほとんどが架空であること、それに関わった金額を支出した裏帳簿があることは、内部告発者との接触の中で承知している。

 現職の知事がここまでの事実を把握していることは、極めて重大である。知事として、内部調査を県警に要請したが、その調査において、県警は協力者には1件もあたっていなかった。そんなずさんな調査に基づいて、「不適正支出はない」という結論が出されたことに衝撃を受けた。

 「内部調査には期待できない。関係書類を見せて欲しい。関わった捜査員から聴取をさせて欲しい」という私からの要請に対しては、「捜査上の支障」を理由に拒否されてしまった。

 これでは、今年度予算が適正に執行されていることが確認できないので、6月の段階で予算の執行を停止した。報復や見せしめではない。予算執行の最高責任者たる知事として、適正執行が確認できない予算を執行することは、納税者たる県民に申し開きができないからである。

 情報公開の問題ではない。書類を公開せよというのではなくて、予算執行権者としての知事と県警との関係である。「捜査上の支障」を理由に知事への説明をも拒否することは、知事が捜査上の秘密を漏らすということか。適正執行を疑われている予算について、知事が確認できないとすれば、一体誰がその役を担うのか。

 「暴力団内にも協力者がいる」と説明しつつ、「協力者の生命に関わる。だから、絶対に秘密を守るしかない」というのが、県警が常套的に使う論理である。しかし、「エス」と呼ばれる「危険な」協力者の存在を捜査員は上司にすら明かさない。そんな名前が、報償費予算に関する書類に登場するはずがない。だから、協力者なるものが実在するとしても、知事に見せる書類上に危険な名前は出てくることはない。

 報償費の不適正支出が発覚したとすると、県警関係者の処分は当然としても、知事も処分対象になり得る。つまりは、これは、宮城県全体の内部問題という性格のものである。内部の関係として、ある部局が知事に説明を拒むような事案について、知事が責任を取らされるのは、なんとも理不尽ではないか。

 臭いものに蓋、うるさい知事がいなくなったから、露見の心配はなくなった。それで県警組織の自浄作用が働くとは思えない。県民から信頼される警察に生まれ変わらなければ、組織に明日はない。つまり、ネクストはないのである。今こそ、警察組織全体として、真剣に問題に取り組むべき時期であると信じる。


TOP][NEWS][日記][メルマガ][記事][連載][プロフィール][著作][夢ネットワーク][リンク

(c)浅野史郎・夢ネットワーク mailto:yumenet@asanoshiro.org