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月刊ガバナンス平成20年4月号
アサノ・ネクストから 第26

橋下大阪府知事の誕生

 橋下徹大阪府知事が誕生した。テレビで知名度抜群の弁護士で、「タレント候補」などと呼ばれたが、この場合の「タレント」は原語の意味どおり「才能」と理解すべきだろう。38歳の若さに加え、多方面の才能は、何かをやってくれるという期待を抱かせるのに十分である。

 なにしろ、選挙が対立候補をダブルスコアで破るという圧勝であったということが大きい。府民の期待を一身に集めたのだから、自信を持ってやっていける。選挙で負けた民主党にしても、これだけの大差で負けたことの意味は噛み締めているはずである。

 就任直後から、橋下知事は大いに語り、激しく行動した。新規の府債の発行はしない、新規事業はゼロにしての暫定予算を組む、27の府立施設は図書館を除いて原則廃止する。こういった方針を次々に提示した。職員への訓示で、「大阪府の職員は、破産会社の社員という気持ちでやって欲しい」と述べた。財政再建への並々ならぬ決意がうかがわれる。

 改革への動きが急激であり、内容も震度7程度の激しいものであるから、いろいろな場面で摩擦を起こしている。これからは、もっとすごいだろう。暫定予算では、府内の市町への補助金をストップしている事業もあるから、新年度開始を目の前にして、これらの自治体では大混乱であろう。府立施設の廃止では、そこに勤務する職員が職を失う問題が起きる。各種事業を廃止、縮小すれば、多くの対象者が悲鳴を上げるだろう。

 府立施設が槍玉に挙げられるが、運営費を赤字呼ばわりすると、本質が見失われてしまう。図書館運営は、収入がゼロなのだから、百%赤字である。黒字になるような施設であれば、府がやるより、むしろ民間がやるべきものである。問題は、運営費の額であり、そもそも、その事業が税金を使ってやるにあたいするかどうかが問題である。ここのところが、府民には的確には伝わっていない感がある。

 補助金ストップにより、府下の市町の予算が執行できないのは、大問題である。府のそんな方針をいきなり突きつけられる自治体側としては、不満と不安で一杯であろう。大阪府としては、説明責任以上の、なんらかの対処はどうしても必要になる。

 財政再建至上主義ではないのだろうが、そのように受け止められる部分はある。自治体は会社とは違う。行政サービスをやるのが目的であって、財政再建はそのための手段である。二つの目的の微妙なバランスをどう取るか、それが課題である。

 それにしても、これだけの改革の方向を提示するだけでも、すごいことである。やはり、政権交代があって、初めてできることであるという感を深くする。国の政治においても、政権交代は必要だという感覚を、大阪府や宮崎県の状況を見て、多くの国民が持ってくれれば、この国は変わるだろう。その意味でも、橋下府知事には、ぜひがんばってもらいたい。


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