浅野史郎のWEBサイト『夢らいん』

 

月刊ガバナンス平成18年2月号
アサノ・ネクストから 第2

障害者自立支援法

 「アサノ・ネクスト」のタイトルは、「知事職以降のアサノのネクスト・ステージ」と「アサノが語る日本のネクスト展望」の意味を込めている。「ガバナンス」の前身の「晨」に、「アサノ知事のスタンス」を2年間連載していた。そのネクストでもある。

 さて、ネクスト展望の最初は、今年四月施行の障害者自立支援法について。

 2003年度度開始の支援費制度の問題点克服が、障害者自立支援法制定の趣旨である。支援費制度は措置制度から脱して、市町村と障害者の契約に基づく「選ぶ福祉」へと脱皮することを目指していた。障害者の地域生活を支援する目的も明確ではあった。

  支援費制度に力を得て、それまで施設や親元での生活を余儀なくされていた障害者が、地域での自立した生活へと移行していった。私は、この流れを評する際に、「寝た子が起こされた」という表現を使った。

 選ぶ福祉、買う福祉への転換と謳われたが、お店の棚には商品が十分に用意されていなかった。お客殺到で、商品売切れという状況も生じた。年度途中で、在宅支援のための予算不足となり、障害者は厚生労働省に押しかけ、役所は追加予算獲得に奔走するという姿が、ひんぱんに見られたほどである。支援費のうちで、在宅支援のための費用は「予算の範囲内で」とされていた。寝た子は起きて地域に出て行ったのであるが、予算のほうの実態が伴わなかった。

 障害者自立支援法には、支援費制度の課題を克服しつつ、障害者の地域での自立生活をさらに支援していこうという想いが込められている。「障害者を納税者に」ということで、就労支援にも力が入れられる。その趣旨やよしである。新たに、精神障害者への支援が取り込まれたことは、特筆に値する。

  障害者の一部から根強い反発があった、一割の受益者負担の導入は、運営次第という面がある。例えば、低収入の障害者が親がかりにならざるを得なくなる仕組みは採るべきでない。障害者の介護保険への取り込みを視野に入れて、介護保険における費用負担のルールを、今回の障害者自立支援法で取り入れることは避けられない方向であった。

  費用負担の問題に限らず、これからの運用がとても重要である。実施主体となる市町村に、必要な人材、専門性、サービス供給主体は用意されているのか。精神障害者への支援などは、多くの市町村にとっては未知の分野に近い。早急に体制整備がなされなければならない。

  障害者を「あわれでかわいそうな存在」としてではなく、地域の中で普通の生活を送れるような社会を築くこと、これこそがネクスト日本の目指すべき方向である。

  宮城県では、私が知事であった2004年2月に「みやぎ知的障害者施設解体宣言」を発した。知的障害者の地域移行を進めることによって、居住型の施設はなくなってもよくなる。この方向を確実にするためにも、障害者自立支援法の確実な実施が求められる。施設から地域へという流れを、実態あるものにしていくための試み。障害者自立支援法に大きな期待を寄せるゆえんである。


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