月刊ガバナンス平成19年7月号 ふるさと納税 「ふるさと納税」なるものが検討中らしい。住民は、住民税の納税額の一部(10パーセント程度)を、自分が住んでいない自治体に納められる制度とのこと。私の頭にまず浮かんできたのは、うさんくさい、おためごかし、地方分断といった言葉であった。 住民税には、住所地の自治体から受ける便益への対価という意味もある。その自治体への納税を一部の人だけが1割引きにしていいのか。生まれ育ちが東京で、北海道に住んでいる人は、北海道に9割、東京に1割の納税ということも可能でないと理屈が通らないが、それだと趣旨に反することにならないか。こんな複雑な納税のための徴税コストは、大きく跳ね上がるおのではないか、などなど。 税とは何かといった理屈とは別に、提案の背景が気になる。地域経済が、東京の一人勝ちの様相を呈している中で、地方は疲弊している。地方自治体の財政運営も、青息吐息である。東京と地方との格差を何とかしろという悲鳴が聞こえてくる。こういった悲鳴に応えれば、目の前の参議院議員選挙で票が稼げるとでも思ったのだろうか。このタイミングでのふるさと納税なる案の提案には、政権与党の思惑が透けて見える。 気をつけるべきは、誰による提案かということである。道州制について、このコラムでも「毒まんじゅうに気をつけろ」と書いた。道州制は、国と地方との関係に関わるシステム変革である。国が、自分に不利になるような案を出してくるはずがないというのが、私の見方である。「案の中身に気をつけよう」、食べると命に関わる毒まんじゅうかもしれない。つまりは、道州制の案が地方の叡智を絞って出されたものか、それとも政府が目くらましとして出している案か。そこが判断の分かれ目となる。 ふるさと納税も同様である。意図的ではないとしても、地方自治体に内部対立の種を巻いた結果になった。東京など首都圏の自治体は、ふるさと納税案に対しては、早速、反対の論陣を張った。愛知県、大阪府も同様。一方、人口減などに伴う税収減に悩む自治体では、「ぜひ導入を」の大合唱。全国知事会での議論でも、賛否が入り乱れたと聞く。 地方側から、格差、格差とあまり言い立てるべきではない。ルールが不公平というのでなければ、自治体ごとの、結果としての違いを格差であるとして、是正を言い立てるのはいい加減にすべきである。さもないと、自治体制度そのものに関わってしまう。地方分権の議論さえも、吹っ飛んでしまう危険すら感じる。 格差全廃のためには、「国営自治体」がふさわしいが、それでいいはずがない。地域にしても、自治体にしても、違っていることが命である。違いを強調しながらの競い合いが、地方の活力につながる。 ふるさと納税も、地方側で十分な議論をして、東京などをも巻き込んだうえでの地方側からの提案であれば、議論の方向も違ってきただろう。政府から示された案をありがたがって受け入れるというのでは、地方側の心根が見透かされるではないか。そんな思いで議論の行く末を見守っている。
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