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月刊ガバナンス平成19年3月号
アサノ・ネクストから 第15

宮崎県知事選挙

 1月の宮崎県出直し知事選挙で、東国原英夫(そのまんま東)知事が当選した。快挙である。当選の一番の要因は、立候補したことである。冗談のように聞こえるがそうではない。周りは立候補を止めたであろう。「とても無理だ、やめておけ」、「勝てっこない」と、親しい人ほど進言したはずである。そんな反対意見を乗り越えて立候補した勇気と決断が、この快挙に結びついた。

 このことを強調するのは、各地の首長選挙において、「どうせ、結果はわかっている」という思い込みが、候補者たらんとする人、有権者の間に蔓延しているからである。「現職には勝てない」、「政党や団体の応援が多い候補者は強い」という思い込みである。これでは「強い」候補者に挑戦する第二、第三の候補者が出てこれない。有権者の選択肢が限られてしまう。選挙への関心だけでなく、地方自治への関心が雲散してしまうことを憂えていた。そこに新風を吹き込んだのが、東候補であった。

 行政経験がないことは、選挙戦でマイナスにはならなかった。出直し知事選挙である。現職知事の逮捕で、宮崎県民は深く傷つき、これまでの県政の体制に怒りを示した。だからこそ、これまでの体制と最も遠い位置にいる候補者である、そのまんま東さんに期待が集まったのである。

 東候補は、地道でまっとうな選挙を展開した。政党関係だけでなく、業界、団体からの組織的な支援はないので、ひ弱に見える選挙だったが、むしろその弱さが県民に受けた。正々堂々たる選挙と言っていい。「選挙のありようが、知事のありようを決定づける」という私の信条からいけば、東知事が正々堂々たる知事になることは、まちがいない。県政において、困難に立ち向かう時には、選挙期間中に県民から得た信頼は、大きな勇気につながることだろう。

 知事として、行政経験がないのが問題だろうか。「宮崎県庁の常識は、県民の非常識」といった状態での新知事の誕生である。東知事は、県庁組織の仕事ぶり、県職員の考え方を知れば、「それって、おかしいんじゃないの」という場面に、何度も出くわすであろう。その感覚が重要である。県政の改革が至上命題であるので、下手に行政の「常識」を身につけていないほうが、動きやすい。行政の基本は、走りながら学んでいけばいい。

 県議会との関係が大変だろうという心配もささやかれる。田中康夫知事が登場した時の長野県とは違う。官製談合で知事が逮捕されるような県政を改革しなければならないということは、県議会だって十分に認識している。しかも、七万票もの大差で県民が選んだ知事と対決するには、県議会側にも相当の覚悟がいる。理不尽な知事攻撃をすれば、次の県議会議員選挙で、同じ県民から手痛いしっぺ返しを受けるであろう。

 和歌山県の出直し知事選挙で、県民が燃えなかったのと好対照である。和歌山県の場合は、「どうせ、何も変わらない」という自嘲の声さえ聞こえてきた。あきらめてはならない、県政は変えられる。これが、今回の宮崎県知事選挙の教訓である。


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