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杜の都の空から 第88号

「ご愛読に感謝」

 長い間、勝手気ままに書かせてもらったこの連載が、今回で終わってしまう.出版界の言い方に従えば、しばし休載というところ。

 振り返れば、この連載を始めたのは平成四年だった。当時、私は、厚生省を一時離れて,厚生年金基金連合会に在籍していた。「現代社会保険」にエッセイを書いて欲しいと編集部から頼まれて、軽い気持ちでお引き受けしたような気がする。「23階の窓から」というタイトルで、十六回続いた。

 人事異動で厚生省生活衛生局企画課長になってからも、連載を続けた。今度は、「八階の窓から」のタイトルで。なんのことはない、その時のオフィス所在階をそのままタイトルに使っただけのことである。このころになると、調子が出てきて、「やめろ」と言われるまでは、連載続けるからねと言っていた。このタイトルでは、たった四回しか書かなかった。

 たった四回しか続かなかったのは、このポストを、突然やめることになったからである。通算二十三年七ヶ月勤務した厚生省を、平成五年十一月一日付けで退職した。ふるさと宮城県の「出直し」知事選挙に出馬のためである。連載中断のピンチは、ただ一度、この頃である。

 しかし、休載しなかった。十一月二十一日の選挙で宮城県知事に当選し、二十三日に関係方面にご挨拶のために上京した。東京に向かう新幹線の中で、この連載のための原稿を書きなぐっていたのを、今でもなつかしく思い出す。


 結局、八十八回プラス四回プラス十六回、通算で百八回ものロングランになってしまった。「杜の都の空から」の最初の二十三回分は、「誰のための福祉かー走りながら考えた」《1996年5月岩波同時代ライブラリー》に、そのあとの四十四回分は「福祉立国への挑戦―ジョギング知事のはしり書き」(2000年2月本の森)に収載されている。本の形でまとめられると、原稿が散逸する心配がないので、著者としてはありがたい。なによりも、一冊の本になるということは、とても晴れがましくうれしいものではある。この点でも、「現代社会保険」の皆様には、心から感謝申し上げたい。

  正直言って、この執筆がつらいとか、いやだとか思ったことは一度もない。「ほんとうに、こんな愚にもつかない駄文で原稿料いただいてもいいのだろうか」とか、「実際に、一体どれだけの人が読んでいるのだろうか」という疑問はあったけれども、「やめろ」と言われないのをよいことに、楽しく書き続けさせてもらったことに、心から感謝申し上げるのみである。

 結局のところ、私にとっては、この執筆が生活のリズムになってしまったのである。一時期は、週刊の「福祉新聞」にコラム「ジョギング知事の走りながら考えた」、月刊の「晨」(あした)に「アサノ知事のスタンス」、毎月の「県政だより」に随筆「助走」、それに季刊のもの何本か、プラス随時の執筆依頼で、一ヶ月に十本近くの執筆を抱えていたことがあって、「質はともかく、流行作家並だな」と「豪語」していたものである。


 「質はともかく」ということで言えば、編集者にとっては、私は理想的に近い書き手であったと思う。ひとつは、見易い原稿。ワープロでの作成原稿だから、これは当然である。もうひとつは、締切りを絶対に守ること。

  基本的に、夜は読書を除いては、仕事がらみの知的活動はしないことにしているので、執筆はすべて週末ということになる。週末に行事が入ることが少なくないので、ある週末がつぶれてしまうと、その次に執筆できるのは三週間後ということになりかねない。連載に穴をあけてはならないということで、執筆はどうしても前倒し前倒しということになるのである。

  「楽しく書いた」、「つらい、いやだは一切なし」というのは、あたりまえである。読者にはご承知のとおり、むずかしい内容はまったくないのだから、書くのに苦労するはずがない。自分だけで満足していればよい日記みたいなものである。そもそも、人に見せるとか、活字にするとかするようなものではなく、ましてや、それで原稿料をもらうような代物ではないと言える。

  唯一大変なのは、どんなトピック書くかを決めることであった。何について書くかがぎりぎりまで決まらないと、さすがに少しあせる。時間的な余裕があるときは、結構早い時期にトピックが決まって、あとはジョギングをしながらでも、書く内容は自然に浮かんでくる。ある程度内容が豊かになるとすれば、それはこういうプロセスを経てのことである。

  「流行作家並み」になってからは、こういう時間的余裕がなくなった。ワープロに向かってから初めて題材を決めて、それから思いつくままに書き進むというやり方になってしまった。これでは、とても内容豊かな文章にはならない。私自身も残念だったが、読者にも申し訳ないことではあった。

  ともあれ、今回でこの連載はしばし休載ということになる。ほっとしたというよりも、ちょっと寂しいというのが、率直なところである。来月からは、締切りを意識した身の引き締まる思いがなくなる、「何について書こうかな」といったものおもいもなくなる。それはそれで、ちょとした脱力感ではある。

  ともあれ、長い間のご愛読に心から感謝申し上げる。杜の都の空から、皆様のご発展をお祈りしながら、お別れをしたい。


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