杜の都の空から 第85号 「情報公開条例の改正」 宮城県議会の九月定例会は、情報公開条例の改正をめぐつて大いに揺れた。なにしろ、知事が提案した条例案に対して、本会議の場で、県警本部長がそれに反対の答弁を堂々と展開する。その答弁に対して、知事が口角泡を飛ばす勢いで必死になって反論をするという具合である。 ことの始まりは、宮城県の情報公開条例の実施機関に新たに公案委員会と県警本部長を加えるという改正をするということであった。問題は、開示請求のあった文書を非開示とするにあたっての実施機関の「第一次判断権の尊重規定」を入れるかどうかである。そもそも、これが理解困難である。そんなむずかしい議論が、県議会の場で、丁々発止とされている場面を想像してもらいたい。 もう少し説明すると、情報公開条例では、行政文書は開示が原則。例外的に非開示にできるものが、宮城県の情報公開条例でいえば第八条各号に列挙されている。「開示されれば行政の執行上、支障の生ずる情報」、「捜査上、犯罪の予防上、支障が生ずるおそれのある情報」という具合である。 県警本部長は、警察の文書は特殊であるから、「支障が生ずるおそれのある情報」という規定では不十分で、「支障が生じると、県警本部長が認めるにつき相当の理由がある情報」に直して欲しいと言ってきた。これが「実施機関の第一次判断権の尊重規定」と呼ばれるものである。 このことが問題になるのは、「非開示」とした県警本部長の判断に開示請求者が不服があって、裁判に訴えたときである。裁判官は、問題になっている文書が開示されたときに捜査上、犯罪予防上、支障が生ずるおそれがあるかどうかを判断すればいいというのが、改正条例案(知事案)の考え方である。県警は、それでは本来非開示にすべき情報が開示とされる可能性があるので、県警本部長の非開示の判断の相当性を裁判官の判定の基準にするべきであると主張する。
警察不祥事の頻発の記憶が生々しいということもあり、県民からは「情報公開に消極的な警察」というイメージで見られていたことは、警察にとって不幸なことではあった。一方において、「治安の維持か知る権利か」などという見当違いの見方が飛び交ったりもした。捜査とか、犯罪の予防とか言われると、びびってしまうという心理状況もあるから、そんな言い方が結構受け入れられる下地はあった。 議会の図式で言うと、民主、社民、共産プラス一会派が知事案支持、それ以外の会派、つまり自民系と公明系が県警案支持であった。本会議の座席では、前者が演壇の左側、後者が右側に並ぶ。私の答弁には、右側から痛烈な野次が飛ぶ。県警本部長が答弁すると「そのとおり」という支持の声が同じく右側から聞こえてくるという状況が何度も見られた。 そんなこともあり、マスコミの報道は加熱気味になるし、議会では特別の委員会を設置し、参考人招致の審議をまるまる二日行うなど、大変な盛り上がりぶりを見せた。会期を延長しての最終日、ついに、多数派は県警案を丸飲みする形の「修正案」を可決するという事態にまで至ったのである。 異例づくめの議会の最後の最後、今度は、その修正案可決に対して、県政史上初めて、知事の再議権を私が行使して、議会は大変な緊迫状態を迎えた。四十二票(三分の二以上)集められると、私の再議権の行使が否定されて、修正案が通ってしまうのだが、四十対二十三で辛うじてそれが阻止された。その直後、知事提出の原案も否決されたので、結局は「ふりだしに戻る」ということになった。
混乱の九月議会を経て、その後の十一月議会では、知事側、県警側の、真摯でねばり強い協議・調整が精力的に行われ、お互いに納得できる調整案ができあがった。その結果、十一月議会の会期の中途に追加提案され、情報公開条例改正案が可決成立したことを報告したい。一連の議論の経過も含め、情報公開のあるべき姿を宮城県から発信することができた。その意味では、この間の「混乱」は、決して無駄ではなかったということを報告して、この稿を終えたい。 |