宮城県知事浅野史郎のWEBサイト『夢らいん』

 

杜の都の空から 第80号

「がんばれタイガース」

 プロ野球について書く。結構好きである。アンチ巨人。阪神タイガースのファンを40年続けている。パ・リーグでは西鉄ライオンズが好きだった。「鉄腕稲尾投手物語」なんていう映画を観にいったこともある。巨人ファンの友達と、中西太と長島茂雄とどっちがすごいか論争したほどである。しかし、いつの間にか西鉄ファンの私はどっかに行ってしまって、プロ野球は阪神オンリーになってしまった。

 阪神ファンであるということは、悪女に惚れた哀れな男と一緒。シーズンが始まってしばらくは快調に走りまくって、「今年はいい線いくかも」と思わせる。悪女が自分の気のある素振りをするのと同じ。その気になって迫ると、さっと身をかわされる。10連敗とかしてしまって、首位から一挙に最下位へ。それであきらめかけるとそこそこ勝ち進んで、「おやっ」と思わせる。惚れ直す。でも。結局は最下位近辺をうろちょろしてシーズンを終わる。

 1985年のシーズンだけは、恋が実った。私はそのとき、札幌にいた。北海道庁に行ったその年の出来事である。北海道は8.9割が巨人ファンという土地柄である。その中で阪神ファンを貫くのはゆるくないのであるが、その年は最初から阪神が突っ走ってしまって、そのままの勢いで優勝してしまった。岡田、掛布、バースがバックスクリーンに三人続けて放り込んだこともあった。そんなすさまじい打撃陣の活躍で、日本シリーズまで制してしまったのである。

 当時も、「これで今世紀中は、もう優勝できないだろうな」と言い合ったものだけれど、それがどうやらほんとになりそうである。「どうやら」と書いたのは、まだ今世紀最後のシーズンが終わっていないから。これを書いている時点では、あとに横浜がいるだけで第5位。このメンバーで、金にあかして選手を買い集めた巨人に勝てたら、快挙というよりも奇跡である。ファンとしては、奇跡を信じたいが、チーム力の歴然たる差はいかんともしがたい。

 話がぐっと変わる。痔の調子がちょっと心配になったので、肛門科の門をくぐった。私の母校、仙台市立木町通小学校の校門前のK肛門科である。待合室にいたら、藪投手の写真が出ているカレンダーが目に入った。この病気の診察前だから、どうしても緊張するというか、照れるというか、気まずい雰囲気である。初対面のK先生に「先生はひょっとして阪神ファンなんですか」と尋ねてみた。

 答は当然イエス。「私も40年来の阪神ファンなんですよ」と応じながら、ベットに横になった。そのせいか、診察の方はなごやかに終わったような気がする。「なごやか」というのもおかしいか。それはともかく、「手術には及びません、しばらく投薬で様子を見ましょう」とK先生。「そうか、またもや様子を見られてしまうのか」と思いながらも、ほっとする私。

 「よかったらこれを」とK先生が差し出すのが、「安心タイガース」、「阪神半疑」と書いてある芝居文字のステッカー。小さなものなので、私の手帳の表紙に貼った。いただいた名刺には名前の隣に「入穴入魂」の文字が大きく刷り込まれていた。結構面白い先生である。帰りがけには、K病院に入院した患者さんが雑記帳に書き込んだ走り書きを集めて本にしたものをいただいた。その名も痔っ況生中継」やっぱり、変な先生である。

 阪神タイガースのことを書いていたのに、思わぬ方向に脱線してしまった。

 「仙台の人なのに、なんで阪神ファンなのか」と聞かれることがある。答は単純で、父親がアンチ巨人の阪神ファンであったからである。吉田義男とか、三宅秀史、藤本勝巳の打撃成績をノートに書き溜めて、毎日打率の計算をしていた。当時の新聞には、選手ごとの打率などでていなかったのである。おかげで、割り算の計算に習熟したなどと言っているが、半分は本当である。

 「巨人、大鵬、卵焼き」と言っても、今の人達にはピンとこないだろうが、子どもが好きなもの3つ並べた言い方であるだから、大人になっても巨人ファンというのは、少し恥ずかしいものなのではないだろうかと、阪神ファンの私など思うのだが、巨人ファンにはまったくというほどそんな感覚はないらしい。

 関西地区でも阪神ファンというのは、「体制派」なのではないかとも思う。東北地方で阪神ファンを張ることは、勇気がいるとは言わないが、「反体制派」雰囲気である。巨人ファンのように、群れたいとも思わない。ひっそりと、一途に、けなげに、しかし狂おしく阪神ファンを続けたい。

 東京の東中野に、阪神ファンしか入れないという焼き鳥屋があった。近所に住んでいたものだから、行けば行けたのだが、行かなかった。群れたくないから?いや、初めて入った客には、店主が阪神選手の名前を言って、即座にその背番号を答えさせ、できないと「この、にせもの!」と怒鳴られて追い出されるといううわさを聞いたから。

 その程度のファンなのである。それでも、それでも、がんばれタイガース!



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